介護士なのに、父の介護は何ひとつできなかった
親の介護がつらい人。悩まなくて大丈夫です。
介護士なのに、父の介護は何ひとつできなかった
わたしは今、介護士として15年ほど働いています。
父の介護が必要になった頃も、すでに7年くらい介護の仕事をしていました。
体位交換もできる。
褥瘡(じょくそう)=むかしでいう『床ずれ』をつくらないために
何をしたらいいのかも知っている。
仕事では普通にやっていたことです。
なのに、父には何ひとつできませんでした。
身体を拭くこともできなかった。体位を変えてあげることもできなかった。
結局、父には褥瘡もできてしまいました。
「わたし介護士なのに、何やってるんだろう」
これは今でも残っている後悔です。
昭和の頑固オヤジだった父
父は職人で、まあ口が悪い人でした。
口を開けば、
「このたわけ!」わたしの顔をみるたび言ってました笑
酒、女、タバコ、遊び。
家族には散々迷惑をかけ、トラブルも多かったです。
でも本人はどこ吹く風。
むちゃくちゃ楽しそうに生きていました。
そんな父に、顔も性格もそっくりと幼い頃から言われていて
すごく嫌でした。
普段、父とわたしはそんなに話をしません。
ただ、家族の中でお酒を飲むのは、父とわたしだけでした。
2005年の愛・地球博にも、なぜか父と二人で行っています。
そこで世界各国のビールを見つけては、二人で飲み歩きました。
何も話さず、「呑むか?」の会話だけ。
おとなになって、はじめて父と二人ででかけた。
ビールを飲みながら歩いただけの記憶しかない、万博の思い出。
あのときの父の顔だけは、忘れられない
父は間質性肺炎でした。
だんだん状態が悪くなって、酸素を使うようになりました。
息をするだけでも苦しそう。
在宅で父をみていた母も、だんだん限界になっていました。
それで、わたしからデイサービスを提案しました。
ケアマネさんとの話し合いにも同席しました。
そのときです。
「お孫さんと一緒に歩きたいよね」何気なく放たれた言葉。
そう声をかけられた父が、必死に笑おうとしていました。
でも、全然笑えていなかった。
身体が思うように動かない。
つらい。
悔しい。
情けない。
いろんな気持ちが、全部あの顔に出ていた気がします。
そして、だれにも気づかれないようにそっと涙が流れました。
たぶん、あの表情をちゃんと見ていたのは、わたしだけだったと思います。
父の涙をみるのは初めてでした。
今でも思い出すと泣けてきます。
危篤の父を残して、わたしはライブへ行った
その後、父は危篤状態になりました。
病室はナースステーションの真ん前。
介護の仕事をしていたから、その部屋がどういう意味なのかも分かっていました。
でも父を見ていて、
「まだ生きる」
なぜか、そんな感じがしました。
ちょうどその頃、ずっと好きだったアーティストが久しぶりに再結成して、
福岡でライブをすることになっていました。
これを逃したら、もう二度と見られないかもしれない。
でも父は危篤。
わたし、本気で天秤にかけました。
今考えても、なかなかすごい選択です。
でも、
「父だったら、どうするかな」
と考えたんです。
酒、女、タバコ、遊び。
自分の好きなように、自由に生きた人です。
そんな父なら、
「行けばいい!」
と言うだろうなと思いました。
だから母には内緒で、甥にだけ伝えて飛行機に乗りました。
愛知から福岡に向かう途中、
「大丈夫かな……」
という気持ちはもちろんありました。
でも、
「大丈夫だよな」
とも思っていました。
あの選択が正しかったのかは、今でも分かりません。
ただ、父だったらやっぱり「行け」と言ったと思います。
わたしは介護士だったけど、父の娘だった
父に何もできなかったことは、今でも後悔しています。
お互いいつもふざけていて、体に触ることが正解か、最後までわからなかった。
懺悔の想いからか分からないけれど、
今も週2回、老人介護の夜勤をしています。
もちろん生活のためでもあります。
でも夜中、利用者さんの身体をきれいにしたり、
体位を変えたりしていると、父を想うことがあります。
「あのとき父にできなかったことを、今、別の誰かにしているのかな」
父の介護をしていた頃、わたしには7年くらい介護士としての経験がありました。
知識も経験もあった。
それでも、できませんでした。
仕事で誰かを介護することと、自分の親を介護することは、全然違いました。
わたしは介護士だったけど、その前に父の娘だったんですよね。
父をうまく介護することはできなかった。
でも、一緒に酒は飲みました。
二人で万博にも行きました。
世界のビールを飲み歩きました。
「このたわけ!」と何回言われたか分かりません。
そんな父がどんな人だったのかは、わたしなりに分かっていたと思います。
介護ができたか、できなかったか。
それだけで父との時間を決めなくてもいいのかな。
今は、少しだけそう思えるようになりました。
だから、親だから介護をしなくてはいけない。
ひとりっ子だからとか、周りの目が….とか悩んでいる方。
どうか、頼れるもの、利用できるものに頼ってほしい。
抱え込まず、じぶんの人生を生きて欲しいです。
じぶんのこころに従うことも時には必要だとわたしは思います。



